応募履歴>「第38回JOMO童話賞」奨励賞作品「ハチマキばあちゃん」


                ハチマキばあちゃん

                                ざきみじゅんこ

 うちのばあちゃんはいつもねじりハチマキをしている。ばあちゃんは魚屋だったんだ。じいちゃんが早く死んだから、ばあちゃん一人で魚屋をしながら、子どもたちを育てた。
 でも、寝るとき以外いつもハチマキをしているばあちゃんを、ぼくはなんだかはずかしく思うときがある。友達を家に連れてくると、決まって「おまえのばあちゃん、なんでハチマキしてんだ?」って聞かれるからだ。
 ばあちゃんはそのときどきで、友達の顔を見て、へんなことを言うんだ。
「ハチマキをしていると、汗が目に入らないからだよ。」
 それはたしかにそうかもしれない。
「ハチマキをしていると、頭がいたくならないんだよ。」
 そういうこともあるのかな?
「ハチマキをしていると、お化けが寄ってこないからだよ。」
 そんなのありっこない。
「ハチマキをしていると、気合が入って長生きできるからだよ。」
 マジかよ?
「ハチマキをしていると、オシャレだからだよ。」
 それって、かんちがいだよ。
 ぼくはばあちゃんのことをちょっとへそ曲がりだと思う。家族のみんなは、ばあちゃんの誕生日や母の日に、帽子やヘアピンなんかをプレゼントして、それとなくハチマキをはずそうと試みてきた。でも、どの作戦も成功したことはないんだ。

 今年の春、授業参観があって、とうちゃんもかあちゃんも仕事でどうしても来られないから、代わりにばあちゃんが来ることになった。ぼくはばあちゃんに強く、お願いした。
「ばあちゃん、ハチマキだけは絶対にしてこないでね!」
 ぼくは力いっぱい頼んだのに、ばあちゃんはそれでもハチマキをしてきたんだ。先生も友達も、ばあちゃんの方を見てニヤニヤ笑っていた。
 ぼくは家に帰ってからばあちゃんを怒った。もう口もききたくなかった。友達が家にきても、ばあちゃんのことは絶対に紹介したくなかった。

 秋になって、ばあちゃんが珍しく風邪をひいた。熱が四十度以上出て、いつも元気なばあちゃんは気が弱くなっているみたいだった。
「勝彦、ばあちゃんのハチマキをとってきてちょうだい。」
「なんでこんなときまでハチマキなんだよ。ハチマキなんかで病気は治らないのに」と、ぼくは思いながら、ばあちゃんの引き出しから古びた手ぬぐいを取り出した。
 そのときぼくははじめて、きちんと折りたたまれた手ぬぐいを見た。きれいに洗濯されていて、ほのかに石けんの匂いがした。「魚八」という魚屋の名前と、だいぶ薄くなっているけど「勝盛」という名前が書いてある。
「かあちゃん、ここに書いてある勝盛ってだれのこと? とうちゃんは勝典だし…」
 ぼくはそばにいたかあちゃんに聞いた。
「勝彦は知らなかったっけ? それは亡くなったじいちゃんの名前だよ。」
「ふーん。」
「ばあちゃんは、いつもじいちゃんと一緒にいたいのよ。」
 なんだよそれ! なんでかあちゃん、そのこと知りながらぼくに教えてくれなかったんだよ。ばあちゃんが今でもじいちゃんのことを思っているなんて。だからいつもハチマキをしていたなんて。ぼくはすまないような気持ちでいっぱいになった。ぼくは心の中で、かあちゃんにどなりたかった。でも寝ているばあちゃんのそばだから、必死にがまんした。
「はい、ばあちゃん、ハチマキだよ。」
「ありがとうね、勝彦。授業参観のときはゴメンね。まだあやまってなかったよね。」
 なんでいまさらそんなこと言うんだよ。なんだか、遠いところにでも行っちゃうみたいじゃないか。 ぼくはちょっと、泣けてきそうになった。ぐっと歯を食いしばった。
「勝彦、ばあちゃんにハチマキをさせてちょうだい。」
 ばあちゃんの声が弱々しく聞こえて、ぼくはあせった。寝ているばあちゃんの頭にハチマキをしてやると、ばあちゃんは言った。
「さあ、もうこれで大丈夫。死んだ人のハチマキをしていれば、神様ももう死んでいる人を連れて行こうとは思わないだろうさ。」
「ばあちゃんたら。」
 かあさんが言うと、ばあちゃんはわざと低い声で言った。
「ばあちゃんじゃないよ、じいちゃんだよ。」
 かあさんも、ぼくも、そしてばあちゃんも笑った。

 きょうはばあちゃんの誕生日だ。ぼくはばあちゃんにプレゼントを買った。絶対ばあちゃんは喜んでくれると思う。プレゼントはもちろん、ハチマキにする手ぬぐいさ。模様のきれいな、ぼくのサイン入りのね。


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