応募履歴>「第16回ふくふく童話大賞」優秀賞作品「オバーの宝物」


                  オバーの宝物

                                ざきみじゅんこ

「なんでこう、最近はドロボーが多いんだろうね。ああ、ぶっそうだ、ぶっそうだ。」
 一軒家で一人暮らしをしているオバーは、あるときテレビのニュースを見ながら、大きなため息をついた。
「ふーっ。うちには大事な宝物がいっぱいあるんだよ。どうしたらいいだろうねえ。ああ、たいへんだ、たいへんだ。」
 ひとりごとをブツブツいいながら、オバーはふと、いいことを思いついた。
「そうだ、大事なものはいつも持ち歩けばいいんだわ。」
 オバーはバッグにおさいふや通帳や印かんやオジーの写真、それからそれから、あれこれ詰め込んで、どこへ行くときも、 大事な荷物を持ち歩くようになった。
 でもしばらくすると、家においてあるあれもこれも気になりだして、オバーが持ち歩くものはたちまち両手にいっぱい、背中にどっさりになってしまった。
 大変なのは買い物に行くときだ。行くときでさえ荷物がいっぱいなのに、買ったものを持って帰るのはしなんのわざだ。
両手にバッグやふろしき包み、背中にはリュック、そしてお腹にもリュック、それでも荷物が持ちきれないときは頭の上にものせて、まるで荷物そのものが道を歩いているようだった。
 けれど、まだ家においてあるものがドロボーに盗まれるかもしれないと思うと、オバーの心配はますますつのるばかりだった。

 そのうち、オバーはどこで見つけたのか、リヤカーを手に入れた。
「リヤカーはラクチンだねえ。」
 それからどこへ行くときも、オバーは荷物をいっぱい積んだリヤカーを引いて歩いた。
 近所の人たちはオバーのことを、いつの間にか「リヤカーオバー」と呼ぶようになった。
 しかし、しばらくするとリヤカーに乗せきれないもののことが気になりだした。オバーの心配は決してなくならなかったのだ。
 オバーはオジーのお墓の前で考えた。
「オジーや、どうしたらいいだろうねえ。ここにはこうして来たいし、家から一歩も出ないわけにはいかないよ…。」
 リヤカーにいっぱいの荷物を見つめながら、オバーは考えた。
 そうして、今度こそいいことを思いついた。
「家ごと持ち歩けばいいんだわ。」
 オバーは家にタイヤをつけることにしたのだ。

 次の日からさっそく大工事が始まった。オバーの子どもたちや近所の人も手伝って、家全体を持ち上げ、トラックにつけるような大きなタイヤを十本つけた。
「さあ、これで安心。」
 オバーはどこへ行くときもタイヤのついた家をひっぱって歩いた。
 買い物に行くときも。散歩に行くときも。オジーのお墓参りに行くときも。
 それからオバーは「家ひきオバー」と呼ばれるようになった。
 オバーが一番困ったのは、孫の家へあそびにいくときだった。孫はマンションの三階に住んでいるので、三階まで家を持っていくことができないのだ。
 オバーが家をひっぱって歩くようになってから、オバーの孫も近所で有名になった。なにしろ、オバーの声があまりにも大きかったのだ。
「カナちゃ〜ん、オバーがきたよ〜。
カナちゃ〜ん、顔を出しておくれ〜。」
 孫のカナちゃんはオバーの大きな声がするたびに、部屋から出てこなければならなかった。

 あるとき、孫のカナちゃんはオバーにきいた。
「オバーはどうしていつも家をひっぱって歩いているの?」
「そりゃあ、この家には大事な宝物がいっぱいあるからだよ。」
「ふーん。」
 かなちゃんは不思議だった。だってオバーの家は、柱はキズだらけだし、障子やふすまもやぶれてボロボロだし、お茶わんやお皿だって、欠けたり、ひびが入ったりしているものばかりだったからだ。
(オバーの宝物って、いったいなんなんだろう?)
 かなちゃんにはオバーの宝物がなんなのか、さっぱりわからなかった。かなちゃんは思い切って聞いてみることにした。
「ねえ、オバー。オバーの宝物ってなあに?」
「あいや、それはね、簡単に話せやしないよ。どこでドロボーがこの話をきいているかも分からないからね。」
 オバーはあちこちを見わたしながら、小さな声で言うのだった。
かなちゃんはますます、あの家にはすごい宝物があるにちがいないと思った。

 あるとき、オバーが家をひっぱって歩いていると、近所のネコたちがオバーを見てコソコソとないしょ話をしていた。
 オバーがネコたちに
「なんの話だい?」
と、問い詰めるとネコたちは言った。
「オバーは家だけをひっぱって歩いているから、庭はいらないんだよね。それなら、ボクたちに庭をちょうだい!」 
「チョーダーイ!」
「チョーダイ!」
「チョーダーイ!」
「チョーダイ!」
 オバーは、「しまった!」とつぶやいて、家をひっぱって急いで庭に戻った。今度はどうやって、庭を盗まれないようにするか考えた。庭にも大事な宝物がいっぱいつまっているのだ。
 オジーと耕した小さな畑や花壇。子どもたちが転んで泣いた庭の石ころ。スイカを食べながら、家族みんなでタネ飛ばし競争をした縁台。
 考えても、考えても、眠れない日がつづき、庭から一歩も出られなくなってしまった。

 ある朝、オバーはまたいいことを思いついた。
 オバーはそれから何日も何日もかかって、スコップで庭を掘り起こし、家の上に庭を全部乗せてしまったのだ。
 家ひきオバーはそれから「家ひき庭ひきオバー」と呼ばれるようになった。
 オバーはどこにいくときも大事な家と大事な庭をひっぱって、いつも一緒だ。
「オジーやオジー、もうこれで安心ですよ。オジーとわたしの大事な宝物は決して誰にも盗まれたりしませんかんらね。」
 オバーはオジーのお墓の前で手を合わせた。
 オバーの宝物、それは柱のキズにも、やぶれた障子やふすまにも、欠けたりひびが入ったお茶わんやお皿にも、家中に、そして庭中に、ギューッと、ギューッと、つまっているのだ。

 家ひき庭ひきオバーのイビキが今夜も近所にひびきわたっている。
 そんなに大きなイビキはどこから聞こえるかって?
 オバーはドロボーに家と庭を盗まれないように、家のカギを全部しめて、家の上の庭でぐっすり眠っているんだって。
 うむやす、うむやす。
                                    おしまい


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